18世紀のマンドリンに対しての誤解
日本ではマンドリン人口は世界一というくらい多いのに、18世紀のマンドリン作品に対する注目度がとても低いのは残念なことです。来年のソロコンクールの課題曲にフンメルのコンチェルトが選ばれたことでもあり、ここで、18世紀のマンドリンに対する誤解を少しでも解いていただき、もう少し注目してもらいたいと思います。
●ナポリ型マンドリンはヴィナッチアが改良した?
ヴィナッチアが「弦をスチールに替え、それに見合う構造にした」ということは正しいでしょう。しかし必ずしも「改良」とは言えない部分もあります。
1.音がとても硬くなった。
2.スチール弦の張りの強さのために押さえづらくなり、速いパッセージ、トリル、ビブラートなど細かな動きがしづらくなった。
3.ヘッドが重くなり、ポジション移動がしづらくなった。
4,ボディが大きくなり、重さもあり、立って演奏しにくくなった。
これらのことは、ナポリ型のマンドリンを演奏してみるととても良く分かります。わたしはヴィナッチアしたことは「改良」だとは思っていません。「改造」だと思っています。
●改良(改造)以前のマンドリンは単弦だった?
ヴィナッチアの改造以前のナポリ型マンドリンも、もとから複弦でした。この点について、マンドリン関係の本でも間違って書かれていることが多いのには驚きます。18世紀のマンドリンの写真を見れば複弦であることはすぐ分かることです。そのような間違いを本に書いている著者は勉強不足も良いところという気がします。なお、ホームページでは間違いはもっと多いです。
●ヴィナッチアの改良(改造)以後、トレモロが生まれた?
18世紀のマンドリンもトレモロもしようと思えば可能でした。18世紀フランスのマンドリン教則本に「トレモロは使用すべきでなく、トリルを使うべきである」と書かれています。つまり既にトレモロをする人はいたのです。ヴァイオリンだってトレモロするのですから、マンドリンにもトレモロがあったのは当然ですね。トレモロを(ほとんど)しなかったのは、あくまで「特殊な」奏法だったからです。また、好まれていなかったということもあります。なお、ピアノはトレモロをしますが、チェンバロは音の持続が必要なときはトリルをするほうが多いです。
●マンドリンが複弦であるのは、トレモロのため?
18世紀のマンドリンが複弦であったことを考えれば、これが間違いであることはすぐ分かります。複弦なのは、音量を増やすためです。音量が小さい撥弦楽器は少しでも音量を上げるために複弦になっているのは普通です。古典ギター、古楽器のリュートも複弦ですね。従ってトレモロのためではありません。マンドリンに取って、複弦であることが結果としてトレモロがしやすく、音にも深みが出るのは確かですが。
●ヴィナッチアの改良(改造)以後のトレモロによってマンドリンの世界が発展した?
18世紀には様々なマンドリンの作品が作曲されています。合奏というより室内楽の1つの楽器として扱われています。そして、他の楽器との扱いの差が少なく、ヴァイオリン属や、フルートなどとの組み合わせの室内楽作品もたくさんあります。またオペラの世界でも使われた例がいくつもあります。むしろ、現代のマンドリンのかたちになってからの方が、作曲家たちに注目されなくなってしまったのです。マンドリン・ギターの合奏が盛んになり、人口が増えたとは言えますが、音楽全体の中に占める重要度、あるいは作曲家や音楽関係者からの注目度から判断すると、「発展した」とは言えません。
18世紀のマンドリンのための作品にはフンメルのコンチェルト他にも、フンメルのソナタ、ベートーヴェンの4曲の室内楽作品、ヴィヴァルディ、ハッセ、ペルゴレージ、パイジェルロなどの著名な作曲家によるコンチェルトがあります。また、モーツァルトはドンジョヴァンニの中でマンドリンを用い、またマンドリン伴奏による歌曲も2曲作曲しています。日本のマンドリン奏者にももっとこのような時代のマンドリンを知っていただきたいと思います。
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