楽譜を入手する努力とラヴィトラーノの名前
今回は珍しくマンドリン合奏曲の話題です。
皆さんは合奏にあたってどんな楽譜を使用しているでしょうか。「オリジナル曲」という言葉にこだわる方は多いですが、「オリジナル」の譜面についてのこだわりがどこまであるでしょうか。
残念ながら、マンドリン関係者にはとても安易に入手した楽譜を使用する人が多くいます。著作権の問題というより、そういう姿勢にがっかりさせられることが多いです。言い換えると、とても良い演奏者は楽譜の入手も正しく行っていることが多く、一緒に演奏するときも信用できます。
私がマンドリンを始めた当時、高校には出典の不明なパート譜ばかりありました。
(なんと当時はほとんどスコアがなかったのです)
高校生の私に取って、マンドリン作品は聞いたこともない作曲家の曲ばかりですし、初めて見る楽譜ばかりでしたから、これが本当の楽譜だと思っていました。ところが学年が上がって、更に、卒業してからも合奏指導などをする際にスコアを自分で作ったりしているうちに、今まで使っていた楽譜はとても誤りが多いということに気づきました。
当時音楽之友社から「マンドリンオーケストラのためのハンドブック」という本が出て、とても喜んで購入し夢中になって読みました。………しかし、大学生になってから、これも間違いが多いことに気づき、音楽之友社からこんないい加減な本が出たのかと閉口したものです。
わたしの大学時代には、ギタルラ社にもマンドリンのオリジナル楽譜がいくらか並んでいました。さらに、折りをみて大阪まで出向き、ササヤ書店でもオリジナル楽譜を買いあさったものです。もちろん、マンドリン合奏曲はとても少なく、有名な作品では、唯一「I Mandolini a Congresso!(『マンドリンの群れ』という訳は好きではないので、通常原語で呼んでいます)」のリプリント版があったくらいです。当時はドイツ系のマンドリン合奏、室内楽作品などの楽譜が発売され始めていたので、それらは結構手に入りました。ただとても高かったので、演奏できるかどうかも分からずに購入するのは結構勇気が要りました。(この手のことを何年か続けているとオリジナル譜面の売れ残りにあたることがあり、今は、後述の「レナータ」、マチョッキの「水車小屋の乙女」などの出版譜も持っています。)
しかし、わたしは自分で曲を勉強するにはなるべくオリジナル楽譜が良いと思いました。なにせ、書き写されたものや上記のように新たに別の出版社から出たものなどでは誤りが多かったからです。音楽之友社以外からも国内で出版された譜面がいくつかありましたが、編集者の解釈でオリジナルとはかけ離れた変更がされているものが多く、信用できないものばかりでした。
イタリアの合奏の譜面はほとんどが既に絶版で、手に入りませんでしたので、マンドリン連盟の事務局にお願いしてオリジナル譜面のコピーを頂いたり、同志社大学図書館の中野譜庫からコピーさせていただいたりして集めました。
「オリジナル、またはそのコピーを集める」というのはそれなりの努力が必要であり、その熱意が演奏にもつながっていると思います。
私がプロとして演奏活動を始め、CDを発売し、それなりに名前が知られ始めますと、驚くことに楽譜のコピー依頼が来るようになりました。それも、当時でも発売中の独奏用の楽譜などです。もちろん依頼者とは面識がなく、私のCDを購入したという話をひとしきりした後に、「あの曲のコピーをもらいたい」というのです。その人はコンクールに出たいから、と言っていました。もちろんその人はコンクールには合格しなかったようです。そんな姿勢では優秀な演奏者になんてなれるはずがないからです。他にも何度かコピーの依頼を受けたことがありました。
(ちなみに、全く入手不可能な楽譜(絶版の譜面など)を方々探した上で入手できず、私のところへ相談された方たちもいますが、この方たちは別です。)
大学時代から、クラシックの編曲ものを演奏することも多くなりました。その場合は、オリジナル(原曲)の楽譜が手に入るものも多いので、多くは購入し、演奏にあたって参考にしたものです。音の間違いを見つけることもありますし、そうでなくても、元のスコアを読むと合奏全体がよくわかるのです。
これなどはたいした努力ではないと思いますが、実践しているマンドリン奏者は以外に少ないですね。指揮者の人はそう言う努力をする人が多いですが。
かつて、あるセミプロ楽団に参加していたことがあります。あるとき、合奏をしていて、私は持参したスコアを参考に見ていました。そのとき、その楽団に参加していたメンバーのうち、スコアを持っていたのは指揮者を除き、私以外にたった一人でした。プロが参加している団体でこの程度では、、、、アマチュア団体に期待するのは無理というものです。
一時期、マンドリン関係の楽譜は本当に入手困難な状態でしたが、いまでは、現代ギター社のショップにかなりの楽譜が揃っています。結構高額なのがちょっと困りますが……。
ところで、マンドリン作品の作曲家の中にラヴィトラーノという人がいます。
代表作は、「ローラ」(1902)「雪 ロマンツァとボレロ」(1908)「レナータ」(1909)で、マンドリン合奏経験者にはなじみの作曲家ですね。ところが演奏会のプログラムにこの人の名前が正確なところが分からない、という解説が良くあります。
作曲者名の欄には、Hyacinthe Lavitrano、Giacinto Lavitrano、GH Lavitranoなどいろいろと書かれています。でも、なぜ「分からない」のでしょう。
私が知る限り、Lavitranoはイタリア生まれ、Giacinto Lavitranoです。そして、後年、当時フランス領だったアルジェリアに移住し、フランス国籍を取得して氏名の綴りをHyacinthe Lavitranoに変更したと思われます。
これは、中野二郎氏の「いるぷれっとろ」第6巻(1970年6月発行)に書かれており、松本譲氏の「アルテマンドリニスティカ」No.3(1982年1月発行)にもそのことが引用されています。もっとも松本氏は中野氏のものを引用しただけなので、中野氏の記述が何の資料をもとになされたものかは全く分かりませんが。
中野氏の文献には上記移住と国籍取得の件に続き、「イタリアで出版したものは多くGiacinto、フランスではHyacintheになっている」とあります。私の手許にある、「雪」(イタリア、イルプレットロ刊)にはGiacinto、「レナータ」(フランス、L'Estudiantina刊)には、確かにHyacintheとなっています。ところが面白いのは、「ローラ」(イタリア、イルマンドリーノ刊)で、この楽譜の表紙には「MAESTRO HYACINTHE LAVITRANO」とあり、実際の譜面の右肩には、「Mo. Giacinto Lavitrano」となっています。(Mo.はマエストロの略ですね。作曲家名に良く付いています。)
というわけで、少なくともGH Lavitranoは誤りです。最終国籍がフランスですからHyacinthe が正しいと言えましょう。ただ、ヘンデルをGeorg Friedrich Haendel(ドイツ語 Webではウムラウトが表示できないので、aeにしていますが、本当はaの上にウムラウトが付きます) と、George Frederic Handel(英語)と書くのと同じで、国によって多少表記が違うのは仕方がないことだと思います。
以上の話で、むしろ一番気になるのは、オリジナルスコアを見ればすぐ分かるはずだということです。それが、あちこちで「よくわからない」状態なのは、それだけ調べ方が足りないし、スコアもオリジナルを持っていないということの証拠だと思います。その辺が問題ですね。
ついでに「レナータ」では、ギターのソロの音で「ド」にシャープが付くか付かないかが、マンドリン演奏者たちの間で話題になった時期がありました。ある作曲家(マンドリン指導者)は「スコアにはシャープがないものの、これは音形から言って当然シャープが付く」との文章を発表していたことがあります。もちろんそれで正解なのですが、私の持っているこの曲のパート譜(スコアとセットで売られていたもの)にはちゃんとシャープが付いています。それを見れば、スコアが誤りであることははっきりするのです。話題にするまでもないことです。この辺も、オリジナルの譜面を持っていない団体がいかに多いかということを示していると思っています。
(私個人が入手できたのですから、持っている団体がもっとたくさんあって然るべきだと思うのですが……)
皆さん、もっと正しい楽譜を入手して譜面を良く読むようにしましょう。
こちらも良かったらお読みください。
小論文「美しい音を求める〜より良いマンドリン音楽の演奏を目指して」
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コメント
Hi, I'm a conductor from Italy, I was born in Forio, the homeland of Hyacinthe Lavitrano. I'm searching for notices and scores about this Maestro. Please, can you help me? Thank you.
投稿: Goldhands | 2007/04/16 02:51